暖かく無関心なホットする人(P君) 3話   

 すっかりP君のファンになった。時間は午後6時。どうやらP君は、ずっと隣にいてくれるみたいだ。チャペルには50人ぐらいの人が集まっている。司会者らしき人が、これからクリスマスパーティーをはじめます。と言って一言お祈りしてから、クリスマスソング
のBGMが流れ出した。テーブルの上にはクリスマスケーキや鶏肉の料理や御馳走が並んでいる、P君は一通りの料理をよそってくれた。また飲み物にも気を使ってくれた。D君
にはレストランでも無いようなサービスを受け、感動した。しかも無料で。いったい教会
のクリスチャンと言う人達はどんな人達なんだろう。
 夕飯も、ひと段落した7時ごろ、最初に合った男性の一人が講壇に立った。やはりあの方が牧師なのだ。目の前には聖書と新聖歌が置かれている。司会者が「ルカの福音書2章
OO節を開いてください。」と言うとP君は、すかさず聖書のルカの福音書2章OO節を開いて渡してくれた。
 牧師のメッセージは、よくわからなかったが、その雰囲気は清らかで心が洗われるようだった。また来週の日曜日の午前、この教会で礼拝があるそうだ。また、この教会に来たいと思った。
                                                                               つづく

暖かく無関心なホットする人(P君) 2話

 P君は親切に座席と熱いコーヒーを用意してくれた。彼はジャニーズ系のイケメンで、さぞかし女性にもてるだろうと思った。ふと彼の左手の薬指を見ると、指輪は無かった。
P君は自分の左隣の席に座ると、彼もコーヒーを飲んで「これで、二度目の雪ですね。
11月の雪はビックリしましたね。まだスタッドレスに履き替えていない人が多かったんじゃないですか?インプレッサ、いいですね。雪道にはノーマルタイヤで走れるほど強いそうですね。クリスマスごろ毎シーズン初雪が降りますが、今年は雪の降るのが一月早いですね。」
 彼は前から知っている友人に話すように、滑らかに語った。おかげで、こちらの緊張
も溶けた。仕事柄まず名刺交換するのだが、教会では相手がどんな人か知らなくても、
問題ないみたいだ。自分も自己紹介しなくていいなら、すごく助かる。と思った。
 P君も自分の事を何も話さなかった。教会では、どんなバックグラウンドか知らなくても問題ないようだ。彼は人間関係の距離感の、つかみ方のプロフェショナルだ。、初対面
の人にどう接すればいいか距離感の取り方が絶妙だ。距離感が1000mだと冷たく感じ
(何の会話もない状態、これだと歓迎されていることが伝わらない。また、この教会に
来たいと思わない。)かと言って、しゃべりすぎて、D君が知られたくないプライベート
な話題に触れ、傷つく。(距離感が10mだと、近すぎ、嫌な人になってしまい、もう二度と、この教会に来たいと思わない。)P君は最適な距離感を知っていて、100mぐらいがちょうどいいと瞬時に分かりました。D君は、すっかりP君のファンになりました。教会
って、居心地のいい場所だと思いました。また来週の日曜日に、この教会に来ようと思った。
                             つづく

暖かく無関心なホットする人 (P君)  1話

 雪の積もった寒いクリスマスの日。今年のクリスマスは12月25日(日曜日)です。
ここ数年で日曜日にクリスマスというのは記憶にない。こんな時に、家族も恋人も
いないで一人で過ごすのは精神的に良くないと思います。でもピンチはチャンスです。
相撲でも追い詰められ、かかとが土俵の周りの縄に引っかかった力士は「うっちゃり」
という投げ技で相手力士を投げ飛ばす。野球で言えば、逆転サヨナラホームランのような
ものです。だから、絶体絶命になると火事場の馬鹿力のように、自分でも信じられないような力が出ます。クリスマスが日曜日ということは、ハッピーな人とアンハッピーな人が
ハッキリします。クリスマスが平日でない事は幸か不幸か?
 そんなクリスマスの日が日曜日なので、一緒に過ごす人がいない人は、不幸中の幸い
です。一人だったので教会のクリスマスに集えます。自由に過ごせます。そんな人こそ
選ばれた人です。その人は本当のクリスマスの意味が分るでしょう。
 ここに一人の独身男性がいます。その人はD君。彼は35歳、友達は結婚したり恋人がいるので、一緒にクリスマスを過ごしてくれる人はいません。みんなリア充です。こんな時ほど孤独を感じる時はないと彼は思った。そういえば先日、住んでいるアパートのポストに、近くの教会の案内のハガキが入っていた。そこには「12月25日(日)午後6時より、クリスマスパーティーと賛美とメッセージ、入場無料、初めて教会に集う人も大歓迎、お気軽に、お越しください。」と書いてあった。はじめは無関心だったが、だんだん25日が近づくにつれ気になってきた。この教会は会社に行く途中に通る通勤の道から車で毎日見ていた。白くて、モダンで、建てたのは今から3年ぐらい前だ。あんな教会で結婚式を挙げられたらなあ。と、彼は彼女もいないのに通るたびに思っていた。これはチャンスだ。前から一度行ってみたかったが、日曜日の朝、一人で教会に行くのは、かなり難易度
が高い、これをクリヤーできる人は、かなり自分に自信がある人だろうと思った。でも
今日はクリスマス、ハガキには「大歓迎、お気軽に、お越しください。」と書いてあった。これは言ってみれば、結婚式の招待状のようなもので、大きい顔をして教会に行って
いいんだ。と彼は思った普段には無い大胆な気持ちになってきた。
 12月25日(日)外は昨晩から積もった雪が5cmぐらい、銀世界、ホワイトクリスマスだ。何か今日は、いいことが起こるような気がする。昼食は近くのコンビニで買った「からあげ弁当」と「野菜サラダ」。食べ終わると今日の天気予報を見ていた。昨晩までの
低気圧も太平洋にぬけて、今日は一日中、晴れの天気だ。食べ終わると彼は今晩、教会に
着ていく服選びに取り掛かった。クロゼットを開け考えた。トップスは最近買った暖かい
グレーのジップアップ式のハーフだけのウインターコート。ボトムスも暖かいフリース製
。このままスキー場の食堂にいても、おかしくない服装で、カジュアルだった。
 5時ごろになり、彼は「フーー」と深呼吸した。緊張しないと思っていたが、時間が近づくと、やっぱり緊張してきた。彼はポッケの財布とスマホを確認すると、あわてて玄関
ドアを開け、ドアに鍵をかけ、確認してから階段を下りて行った。アパートの前に止めてある青いインプレッサに乗り込むと、エンジンをかけた。「ボロローー」このエンジン音
が好きでスバルの車を選んだ。しかもスバルの車は雪道に強い。今日のような雪道は得意だ。そう思っていると、例の教会に着いた。アパートから車で5分ぐらいで着いた。
 近くで見ると建ててから、数年しかたっていないので、白い壁がまぶしい。美しい建物
だ。彼は気に入った。時刻は5時30分ごろだ。教会の前の駐車場には10台ぐらいの車が
止めてあった。駐車場にインプレッサを止めて、教会の玄関らしき所に向かって歩いていった。玄関に入ると、そこに2mぐらいあるクリスマスツリーが綺麗に飾ってあった。
また、そこに受付らしきテーブルがあり二人の若い女性が座っていた。彼女たちは25歳
ぐらいだろう。とても明るい方々で、自分がこのハガキをもらったのできました。と言ったら、すごく喜んでくれたので、思い切って来てよかった。と思った。
 そのうちの一人の女性の案内で、その奥の部屋のチャペルに行った。会堂は広く、多分
学校の教室二個分ぐらいで70~80人ぐらい座れると思った。会堂の入口に二人の男性が
ニコニコしながら立っていた。一人は70歳ぐらいの白髪の紳士、多分この人がこの教会の牧師だろう、と思った。もう一人の男性の年齢は自分と同じぐらいの35歳ぐらいと思う。彼は見るからに人がよさそうだった。彼は、まだクリスマスまで時間が20分ぐらい
あるのを見計らって、トイレの場所と、どの席に座っていればいいか教えてくれた。
おまけに熱いコーヒーまで入れてくれた。(彼がP君)
                                つづく