暖かく無関心なホッとする人(P君)2716話

 午後2時30分、

 Bさんは続けて考えていた。「俺はこの歳になるまで好き勝手に生きてきた。まるで
ルカによる福音書15章に出てくる「放蕩息子」そっくりだ。山形の実家は農家で米を
作っている。2歳年上の兄貴が実家の農業を継いでいる。自分はと言うと、こんな田舎で
一生を過ごすのが嫌で、それ一心で高校の時、猛勉強して東京の私立大学に入学した。
東京に来てから、2度と故郷山形にUターン就職したくなく、大学時代からの夢、小説家
になるために、バイトしながらボロアパートに住んでいたけど、20代の頃バイトしていたラーメン屋の皿洗いの時、知り合ったチンピラと友達になったのが運の尽き。それから
はもう一歩で自分もチンピラになるとこだった。悪の道に進むところだったが、なんとかして小説家になりたい夢があったおかげでブレーキが掛かり、貧乏ながらも20代を過ごした。30歳になると、何かが吹っ切れたみたいな軽い気持ちになった。その時29歳と
30歳は1歳しか違わないのになんて自由さが違うんだろうと思って、いい気になって
暴飲暴食、酒を浴びるように飲み、今思えばあの頃は野獣のように肉欲のままに生きてきた、その結果いまじゃ禿げた中年のちびおやじになってしまった。それで40歳の誕生日
はブルーな日だった。でも小説家になる夢だけは持ち続けた。40歳を過ぎたころから
徐々に本が売れ始めた。そのころからD君が俺の担当になったから10年近くの付き合い
だ。確か彼は今36歳だったと思う。クリスチャンになったのは35歳だと言っていた。
確かにそのころから彼は変わった。なんていうか目に力が宿ったというか、とにかく目力
が付いた。クリスチャンになると新しく生まれ変わるというが、彼は昔死んだ目をして
いた。きっと心にある罪がイエス様の流された犠牲の血で赦され、心の不安が無くなり
目が生き返ったんだ。それで新しく生まれると言うんだ。俺も早く彼のようになりたい。

                                     つづく