暖かく無関心なホッとする人(P君)2386話

D君はさらにアタナシウスのことを調べて見た。彼はローマ皇帝コンスタンティヌス1世
の時代、宗教を管轄するローマ帝国の総責任者だった。そんな重大な責任を負わせられた
のだから彼は相当優秀だったのだろう。でもここが一番大事なことです。彼はキリスト教
のキの字も知らない、ただの太陽三神を信仰するエジプト出身の高学歴の人だった。
当時のローマ帝国の皇帝コンスタンティヌス1世は自分の治世の代に、ローマ帝国の国教
をキリスト教にしたいという野望があった。しかし、そうは簡単にはいかなかった。
なにしろローマ帝国は広い。地中海沿岸のほぼすべての国々を飲み込んだ。それらの国々を形だけでもキリスト教の国にすることに成功した。しかし上手く行かない国もあった。それがエジプトだった。彼らは政治的にはローマ帝国に所属したが、宗教的には元の
太陽三神信者のままだった。困った皇帝コンスタンティヌス1世は「そうだ!家臣の
アタナシウスはエジプトのアレキサンドリア出身だ。彼ならエジプト人の考えがよく
分かるはずだ。」と思い、アタナシウスをローマ帝国の宗教を管轄する総責任者に大抜擢
した。ここまで読んでD君は嫌な予感がした。というのも政治の世界ではよくある話で、
最近では財務省が決算文書書き換え問題の責任を、佐川事務次官に責任を擦り付け、彼は辞任に追い込まれたように、政治の力で一人の無力な人を利用して時の権力者の意のままに事を運ばせる。それに利用されたのがアタナシウス。政治家が後押しすれば、どんな人でもすばらしい人と勘違いさせることは容易い。もう一度考えてほしい。アタナシウスはキリスト教のキの字も知らない人だったことを。物心ついたときは太陽三神信仰が盛んなアレキサンドリア、その地で幼少期から少年期青年期を過ごし、当然太陽三神のお祭りに参加し、その儀式にも参加しただろう。その地には多分キリスト教を宣べ伝えるのはムダだと思って宣教しようと思う人もいなかったと思う。実家に帰った時、村八分になる事を恐れて少しも都ローマのキリスト教の事を持ち出さなかったと思う。アタナシウスは故郷アレキサンドリアの懐かしい太陽三神のお祭りや儀式が骨の髄まで染みついていたと思う。その彼が皇帝からエジプトをキリスト教化しろと命じられたから相当悩んだと思う。
D君はその続きを知りたかったが、もう11時30分だから続きは昼食後にすることにした。リーナが台所に入って来た。お昼の準備だ。
                                    つづく