暖かく無関心なホッとする人(P君)1996話

12/26(火)午後1時、リーナは缶詰めのミカンを食べ終え、そのままベッドに横になり布団に潜りこんだ。D君は食べ終えた食器類をおぼんに乗せ、台所の流し台に置き洗った
。彼はお粥だけじゃ足りないので、赤いきつねに熱湯を注いだ。3分後、赤いきつねを
食べ始めた。彼は思った。今頃、隆一も聡もドキドキしているんだろうな。僕も1年前は
今の彼らと同じ気持ちだった。でも結婚というハードルをクリアー来たから、独身の人
にアドバイスできるけど。まだクリアーしていなかったら、自分の事で精いっぱいで他人
の事を心配なんて出来ない。よく既婚男性は独身女性からモテるって聞く。独身女性が
「好きになる男性は大抵もう結婚している。」っていうけど、それは当たり前だと思う。
彼らは毎日、妻という女性と付き合っている。だから女性とどう接すればいいのか、いちいち考えなくても自然にわかる。女性との距離の取り方が絶妙。特に彼女の居ない男性は
いきなり女性に近づいたりしたり、これは相手に恐怖感を与える。でも全然、彼女が居なかった男性は、どう話しかけたらいいか分からなくて、話しかける事だけでも緊張して
考え込んでしまう。女性にも彼の緊張感が伝わってしまい頼りなく思ってしまう。だから
NGなんだ。D君は20代の時、さんざんこれを経験した。失敗は成功の元、というように
とにかく場数を積んだ。それで未婚だったけど、少しは女性の気持ちが分かるようになった。こんなとき女性にどう言えばいいのか、自然に言葉が出て来るようになった。同じ様にD君は以前、電話が苦手だった。受けるのはそんなに苦ではなかったが、掛ける事は
一仕事でストレスが溜まった。仕事なら苦にならないのに、その他のことでは苦になるのはどうしてだろう?と考えた。その理由が数年前にわかった。それは仕事だったら相手の
返事はYESかNO、答えは単純だ。答えがどうであれ精神的にそんなにダメージを受ける事はない。でも仕事以外なら、こちらが掛ける電話の話次第で相手の返事が変わる。全然
どんな答えが返ってくるか想像できない、それで、こちらがこう言ったら、こう帰って来るだろうとシュミレーションをして、一番いいセリフを考えてから電話にのぞむ、それは
あまりにも失言を恐れるからそうなるんだと思う。スキースノボーのことを考えればよくわかる、最初から上手く滑れる人なんていない。何十回も転んで体が転ばないで上手く滑れる方にしてくれる。だから白馬高校出身のスキースノボーの選手なんて、小さい時から
体にスキースノボーが染みついている。彼らはこんなときどう反応すればいいかなんて考えて滑っているわけじゃない。体が勝手に反応している。習うより慣れろだ。
 またブルースリーの名言「考えるな感じろ」だ。そんなわけでD君は電話を掛けるとき相手に言うセリフを考えないようにしている。そうするようになってから緊張しないようになった。これは野球のキャッチャーと同じだと思った。キャッチャーが構えたところに投手がボールを投げてくれるとは限らない。構えたところにボールが飛んで来なければボールを取らない。そんなキャッチャーはどこにもいない。だから一応構えはするけど、どんな所に飛んできても取る気でいる。だからどこにボールが飛んでくるか予測しない。電話もどんな会話になるか予測できないから、セリフを考えないようにした。そうしたら緊張しなくなった。
                                     つづく